次世代のアンテナ設計に求められる視点とは?5G/6G・IoT・衛星通信の進化に学ぶ

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アンテナ技術の最新動向 ― 5G/6G、IoT、衛星通信

アンテナ技術は、無線通信の進化とともに発展を続けてきました。
当連載「基礎からわかるアンテナ技術」では、これまでアンテナの基本原理から、利得・指向性、インピーダンス整合、設置環境の影響、測定と評価、シミュレーションによる設計手法までを順に解説してきました。

本記事では、これまでに学んだ基礎知識を踏まえ、5G/6G、IoT、衛星通信といった注目分野におけるアンテナ技術の動向を取り上げます。アンテナ技術が今後どのような方向へ進んでいくのかを整理しながら、実務で求められる設計視点についても解説します。

1.アンテナ技術はどこへ向かっているのか

無線通信は今や生活インフラとなり、スマートフォンやWi-Fiだけでなく、自動車、工場設備、医療機器、宇宙通信にまで広がっています。その中心にあるのがアンテナです。
通信方式が高度化するほど、アンテナには単に電波を送受信するだけでなく、下記のような新しいニーズにより技術が開発されて進化を続けています。

  • より高い周波数への対応
    波長が数ミリからそれ以下になるミリ波やサブテラヘルツ波の活用が進み、周波数が高くなるほど波長が短くなり、直進性が強くなる一方、遮蔽物の影響や伝搬損失も大きくなります。これに対して特定の方向へ電波を届けるRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)技術の研究等が進められています。
  • 小型化と多機能化
    アンテナ単体でスペースを取るのが許されなくなり、AiP (Antenna in Package)といった半導体チップ内にアンテナを組込む技術やAoC (Antenna on Chip)という更に踏込んでシリコンチップにアンテナを形成する技術など進化しています。
  • 環境影響を考慮した実装設計
    窓ガラスや車のフロントガラスに貼り付ける透明導電膜を利用したアンテナなど実装面でも進化しています。
  • アレイ化による指向性制御
    Massive MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術はビームフォーミングや空間多重を用いてユーザー毎に専用電波を割り当てるアンテナを並列運用する技術です。またデジタル制御処理により電波の向きや形を瞬時に変える「インテリジェントなアンテナ」技術も進められています。

つまりアンテナ技術は「成熟した分野」でありながら、同時に「最前線で進化し続ける分野」でもあります。

 

2.5G/6G時代のアンテナ技術

5G/6Gでは、通信速度の向上や同時接続数の増加に対応するため、より高い周波数帯の活用やアンテナの多素子化が進んでいます。その結果、アンテナ設計では、従来以上に高周波特有の損失、指向性制御、実装精度を意識する必要があります。

 

(1)ミリ波・サブテラヘルツへの対応

5Gでは従来の携帯通信よりも高い周波数帯が利用され、さらに6Gではサブテラヘルツ帯(100GHz以上)の活用も視野に入っています。このように通信が高周波化することで、アンテナ設計の前提そのものが大きく変化しつつあります。周波数が高くなると波長は短くなり、アンテナ寸法も小さくなるという関係があります。

[※関連記事:3分でわかる テラヘルツ波とは?特徴/課題/用途などを解説

この概念を示したものが図1です。図のように、4Gの数GHz帯では波長が数十cm程度であるのに対し、5Gミリ波帯では約1cm6Gのサブテラヘルツ帯では数mmの波長となります。その結果、アンテナ素子そのものは小型化しやすくなり、多数の素子を集積したアレイアンテナ構造も実現しやすくなります。AiP技術やAoC技術などは、この実現のために欠かせない技術です。

 

周波数とアンテナの大きさ
【図1 周波数とアンテナの大きさ】

 

一方で、高周波になるほど、次のような課題も顕在化します。

  • 空間伝搬損失が増える
  • 材料損失や導体損失が無視できなくなる
  • 指向性が強まり、ビーム制御が必要になる

つまりミリ波・サブテラヘルツ時代のアンテナ設計では、「小型化できる」という利点と同時に、「高周波特有の損失や指向性制御」という新たな難しさを統合的に扱う必要があります。こうした課題に対応するため、Massive MIMOやビームフォーミングといった技術が重要になります。

 

(2)アレイアンテナとビームフォーミング

5Gでは従来よりも高い周波数帯が利用され、通信容量を増やすためにアンテナ技術も大きく進化しました。その中心となるのが、多数のアンテナ素子を並べて用いる「アレイアンテナ」と、電波の放射方向を制御する「ビームフォーミング」です。

「アレイアンテナ」は、複数の素子を組み合わせて一つのアンテナシステムとして動作させる構造であり、素子ごとの信号の位相や振幅を調整することで、電波を特定方向に集中させることができます。この技術は5G基地局で広く用いられており、さらに6G時代にはより高周波・より多素子化が進むことで、重要性が一層高まると考えられています。

この概念を模式的に示したものが図2です。
図のように、基地局側のアレイアンテナは利用者の位置に応じてビームを切り替え、必要な方向へ効率よく電波を届けます。その結果、限られた電力や周波数資源を有効に活用しながら、高速通信と多数同時接続を両立することが可能になります。

 

アレイアンテナとビームフォーミングのイメージ
【図2 アレイアンテナとビームフォーミングのイメージ】

 

このように、アレイアンテナとビームフォーミングは単なる「指向性アンテナ」の応用にとどまらず、5G/6Gの通信システムそのものを支える中核技術となっています。

 

3.IoT機器と小型アンテナ

IoT機器の普及に伴い、アンテナには小型化と通信性能の両立が求められるようになっています。
しかし、アンテナは本来ある程度の物理サイズを必要とするため、小型化は設計上の大きな課題となります。

 

(1)超小型端末における制約

IoT機器では、通信機能を持つ端末が極めて小型であることが多く、アンテナ設計の自由度は大きく制限されます。グラウンドが十分に取れない、筐体内部に収める必要がある、周囲物体の影響が大きい、といった条件が重なり、小型アンテナの設計は非常に難易度が高くなります。

この問題をさらに掘り下げると、アンテナが小さくなるほど放射抵抗が小さくなり、相対的に導体損失や誘電体損失の影響が大きくなります。また、Q値が高くなりやすく、使用できる帯域幅が狭くなる傾向があります。またGNDが不十分だと基板全体に高周波電流が流れ出し、手の接触や設置環境により特性が激変してしまう可能性もあります。

 

(2)マルチバンド化と共存

IoT端末ではBluetooth、Wi-Fi、LTE、GNSSなど複数の無線方式が共存することも一般的です。限られた空間で複数バンドを扱うためには、帯域確保相互干渉の抑制実装最適化が重要になります。

従って互いの通信を邪魔しないようにアイソレーション(分離)することが鍵となります。
ここでは「アンテナの重要パラメータ:インピーダンス・VSWR・帯域を基礎から解説」で取り上げた、帯域やQの考え方が、実務課題として直接現れます。

 

4.衛星通信とアンテナの進化

衛星通信も、近年大きく変化している分野の一つです。従来は特殊用途が中心でしたが、低軌道衛星コンステレーションの普及により、一般ユーザー向けの通信インフラとしても注目を集めています。
こうした変化に伴い、アンテナにも高利得化や追尾性能、小型化といった新たな要求が生まれています。

 

(1)LEO衛星通信の普及

近年、低軌道衛星LEO, Low Earth Orbit)を用いた通信サービスが急速に拡大しています。
これは従来の静止衛星(GEO, Geostationary Earth Orbit)が通信遅延(レイテンシ)が大きく、リアルタイム通信に不向きだったことに対して、高度が低いLEOでは、低遅延かつ高速通信が可能になったことです。
衛星通信はこれまで特殊用途の印象がありましたが、今後は一般端末でも利用される可能性があります。

 

(2)電子走査アンテナ(フェーズドアレイ)

低軌道衛星通信では衛星が高速で移動するため、アンテナには追尾能力が求められます。そこで注目されているのが電子走査アンテナ(フェーズドアレイ)です。
これは、機械的に回転させるのではなく、位相制御によって指向性を切り替える技術であり、ビームフォーミングを行うことで、駆動系なしでスキャンが可能であり、今後の重要分野となります。

 

(3)地上端末側の設計課題

衛星通信端末では、高利得、小型・薄型化、コスト制約を同時に満たす必要があります。そのため、メタマテリアル技術を用いたアンテナや、AiP技術によるICとの高密度統合などが重要になります。ここでもアンテナ単体ではなく、筐体・設置環境・測定評価を統合した設計が求められます。

[※関連記事:メタマテリアルとは?原理/構造/応用例などをわかりやすく解説

 

5.これからのアンテナ設計に求められる視点

最新応用分野に共通するキーワードは、「複雑化」と「統合化」です。高周波化、小型化、多機能化が進むほど、アンテナは単体部品としてではなく、筐体・基板・周辺回路・使用環境を含めたシステムの一部として設計する必要があります。

これからのアンテナ設計では、次のような視点が重要になります。

  • 高精度なシミュレーションによる実測との誤差を最小限に抑える設計予測
  • 実機での測定による検証とこの結果を反映したフィードバック
  • 筐体・基板をアンテナの一部として捉え、干渉も含めて最適化する実装設計
  • ノイズ放射(EMC)の抑制と、人体への電波曝露を評価するSAR(比吸収率)規制への配慮

このように、アンテナ設計では、電磁気学や回路設計だけでなく、実装、測定、規格対応までを含めた総合的な視点が求められます。

アンテナは単なる部品ではなく、無線システム全体の性能を左右する中心要素として、その重要性は今後さらに高まると考えられます。

 

6.おわりに

本連載では、アンテナの基本原理から始まり、利得・指向性などの特性評価、インピーダンス整合、実装環境の影響、測定と評価、シミュレーションによる設計手法までを体系的に解説してきました。
最終回となる今回は、5G/6G、IoT、衛星通信といった注目分野を通じて、アンテナ技術が今後も進化し続ける重要な技術分野であることを見てきました。

アンテナ技術を理解することは、無線通信を理解するうえで欠かせません。基礎を押さえたうえで、実務上の制約や最新技術の動向と結び付けて考えることが、これからの無線機器設計ではますます重要になります。

本連載が、アンテナ技術を学ぶ方や、実務でアンテナ設計・評価に関わる方にとって、少しでも理解の助けとなれば幸いです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)

 

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