【アンテナ構造の基本②】ループ/パッチの仕組み・特性と小型アンテナの考え方

前回の記事では、ダイポールアンテナやモノポールアンテナの基本構造・仕組みについて解説しました。ここからは、実際の無線機器で使われるアンテナ構造にも目を向けていきます。
現代の無線機器では、サイズや実装方法、筐体との一体化といった制約から、ダイポールやモノポールといった単純なアンテナ構造をそのまま用いることが難しい場合も少なくありません。そこで登場するのが、ループアンテナやパッチアンテナといった応用的なアンテナ構造です。これらは、基本的なアンテナ理論を踏まえつつ、実装上の制約に対応するために発展してきました。
一方で、「小型アンテナ」という言葉は、特定の構造を指す名称ではなく、限られた空間にアンテナを収めるための設計上の考え方や工夫の総称です。ループアンテナやパッチアンテナを含め、多くのアンテナはこの「小型化」という制約の中で設計されています。
本稿では、ループアンテナとパッチアンテナという代表的な応用構造を紹介するとともに、現代の無線機器に不可欠な小型化の考え方について解説します。
1.応用アンテナ構造を理解する視点
本記事で扱うアンテナは、ダイポールアンテナやモノポールアンテナとは、見た目や構造が大きく異なります。しかし、その動作原理は決して別物ではありません。
(1)基本構造とのつながり
ループアンテナやパッチアンテナも、電流が流れ、時間的に変化することで電磁波を放射・受信するという点では、基本アンテナと共通しています。重要なのは、「形が違うから別の理論が必要になる」のではなく、基本構造をどう変形・応用しているかという視点です。
(2)実装制約が構造を決める
応用アンテナ構造が生まれた背景には、小型化、基板実装、筐体との一体化などの現実的な制約があります。
これらの制約に対応するために、アンテナ構造は多様化してきました。
2.ループアンテナとは何か
「ループアンテナ」は、導体を輪のように配置したアンテナです。
(1)ループアンテナの基本構造
ループアンテナは、その名の通り、導体が閉じたループを形成する構造を持ちます。円形や四角形など、さまざまな形状がありますが、基本的な考え方は共通です。
(2)電流と磁界を中心とした動作
ループアンテナの特徴は、電流によって生じる磁界との結び付きが強い点にあります。
ダイポールアンテナが電界成分との関係を理解しやすい構造であるのに対し、ループアンテナは磁界成分を利用するアンテナとして捉えることができます。
特に小型ループアンテナでは、アンテナ周囲の磁界を利用する性質が強く、RFIDや近距離無線などでよく用いられます。

ループアンテナにはさまざまな形式がありますが、代表例の一つに1波長ループアンテナがあります。これは半波長ダイポールを折り曲げて閉じたような構造としてイメージできます。
1波長ループアンテナの給電点インピーダンスは約110Ωと言われています。指向性としては、ループ面に対して垂直な方向に放射が強くなるなど、特徴的な指向性を示します。
(3)ループアンテナの特性と用途
ループアンテナは、小型化しやすい、周囲環境の影響を受けにくい、といった特徴を持ちます。
そのため、RFIDや近距離無線、ノイズ環境下での通信などに用いられます。
3.パッチアンテナとは何か
「パッチアンテナ」は、基板上に形成される代表的なアンテナ構造です。
(1)パッチアンテナの基本構造
パッチアンテナは、誘電体基板の表面に配置された金属パッチと、その裏面に配置されたグラウンドで構成され、これらの共振現象を利用したものです。この構造により、アンテナを基板と一体化することができます。

(2)共振構造としてのパッチアンテナ
上述のように、パッチアンテナは、金属パッチとグラウンドの間で共振を起こす構造を持っています。
電流分布は基板上に広がり、比較的指向性のある放射特性が得られます。
設計では、金属パッチの長さや幅、誘電体基板の厚さや誘電率、金属パッチとグラウンドの間隔などを調整することで、動作周波数、帯域幅、放射特性を制御します。
(3)パッチアンテナの特性と用途
薄型、軽量、指向性制御がしやすい、アレイ化しやすい、量産時に低コスト化しやすい、といった特徴があります。
GPSアンテナや基地局アンテナ、携帯電話、Wi-Fiなど、さまざまな分野で利用されています。
4.小型アンテナの考え方
現代の無線機器では、アンテナの小型化が重要な設計課題となっています。限られた筐体内にアンテナを収める必要があるため、アンテナ構造にはこれまで以上に多くの工夫が求められます。
なお、「小型アンテナ」という言葉は、特定のアンテナ構造を指す名称ではありません。これは、限られたスペースや筐体内にアンテナを配置するために工夫されたアンテナの総称であり、設計上の制約や考え方を表す概念です。
実際には、ダイポールアンテナやモノポールアンテナ、ループアンテナ、パッチアンテナといったさまざまな構造が、小型化という制約の中で設計され、小型アンテナとして用いられています。そのため、小型アンテナを理解する際には、個別の形状を暗記するのではなく、小型化によってアンテナの特性がどのように変化し、どのような課題が生じるのかを把握することが重要です。
(1)小型化と性能のトレードオフ
アンテナを小型化すると、一般に次のような性能上のトレードオフが生じます。
- 利得の低下
- 帯域の縮小
- インピーダンス調整の難化
- 周囲環境の影響を受けやすい
これは、アンテナの物理サイズが波長に対して小さくなることで、放射に寄与する電流分布が制限されるためです。結果として、空間へ放射される電力が減少し、利得が低下しやすくなります。
また、小型アンテナではエネルギーがアンテナ周辺に蓄積されやすくなり、共振が鋭くなる傾向があります。このため、当連載の第4回「アンテナの重要パラメータ:インピーダンス・VSWR・帯域を基礎から解説」で説明したように「Q」(品質係数)が高くなりやすく、使用可能な周波数範囲、すなわち帯域が狭くなるという問題が生じます。
さらに、アンテナサイズの縮小は、インピーダンスの周波数依存性を強める要因にもなります。その結果、インピーダンス整合が取りにくくなり、マッチング回路による調整が必要になる場合が多くなります。
このように、小型化はアンテナを実装しやすくする一方で、複数の性能低下要因を同時に引き起こすため、設計時には慎重な検討が必要です。加えて、周囲の構造物からの影響を受けやすく、設置場所の選定なども重要になります。
(2)小型アンテナの代表例
小型アンテナには、限られたスペースの中で電流経路を確保するための工夫が凝らされた、さまざまな形式があります。
代表的なものとして、次のようなアンテナが挙げられます。
- 折り曲げアンテナ
- メアンダアンテナ
- チップアンテナ
- 平面逆F型アンテナ
このうち「折り曲げアンテナ」や「メアンダアンテナ」は、導体を折り返したり蛇行させたりすることで、実効的な電流経路長を確保する構造です。これにより、物理的なサイズを抑えながら、所定の周波数で動作させることが可能になります。
一方、「チップアンテナ」は、アンテナ素子を部品として実装できるようにしたもので、実装性や量産性に優れています。
また、「平面逆F型アンテナ」は、導体パターンを折り返した構造とグラウンドを利用することで、限られた基板面積内に必要な電流経路を確保するアンテナです。ただし、アンテナ単体だけでなく、基板や筐体を含めた全体構造がアンテナ特性に大きく影響する点には注意が必要です。
これらの小型アンテナに共通しているのは、形状そのものよりも、電流をどのように流し、どこで放射させるかを重視して設計されている点です。
5.応用アンテナ構造をどう選ぶか
ループアンテナやパッチアンテナといった具体的な構造には、それぞれ得意とする用途があります。さらに、小型化を前提としたアンテナ設計では、性能とのトレードオフも考慮する必要があります。そのため、アンテナ構造の選定は「どの構造が優れているか」を一律に決めるものではなく、要求仕様から逆算して判断することが重要になります。
たとえば、近距離通信や周囲環境の影響を受けにくい特性を重視する場合には、磁界成分との結び付きが強いループアンテナが適しています。
一方、一定方向への放射や指向性制御、アレイ化による性能向上を重視する場合には、基板実装が可能で指向性設計がしやすいパッチアンテナが有力な選択肢となります。
また、携帯端末や小型機器のように、アンテナに割けるスペースが限られている場合には、小型化を前提としたアンテナ構造を採用せざるを得ません。この場合、利得や帯域の低下といったトレードオフを理解したうえで、折り曲げアンテナやメアンダアンテナ、チップアンテナなどから、実装条件に適した形式を選定します。
これら代表的な応用アンテナ構造の特徴や注意点を整理したものが、表1です。
【表1 応用アンテナ構造の比較表】
| 分類 | 主な特徴 | 得意な用途・シーン | 設計・実装上の注意点 |
| ループアンテナ | 磁界成分との結び付きが強く、周囲環境の影響を受けにくい。 比較的小型化しやすい。ループ面に対して特徴的な指向性を示す。 |
RFID、近距離無線、ノイズ環境下の通信 | 放射効率は高くなりにくく、通信距離が限定されやすい。 ループサイズや給電方法によって特性が大きく変化する。 |
| パッチアンテナ | 基板上に形成でき、指向性を持たせやすい。 アレイ化による性能拡張が可能。印刷プロセスなどにより、比較的低コストで実現しやすい。 |
GPS、無線LAN、基地局アンテナ | 帯域が狭くなりやすく、誘電体特性や基板厚の影響を強く受ける。 寸法精度が特性に直結する。 |
| 小型アンテナ (設計カテゴリ) |
限られたスペースに収めるための設計思想。 さまざまな構造を内包する概念。 |
携帯端末、IoT機器、小型無線モジュール | 利得・帯域・整合のトレードオフが大きい。 基板や筐体を含めた全体設計が不可欠で、単体評価が難しい。 |
表に示すように、各構造には明確な長所と制約があり、設計時には通信距離、使用環境、実装スペースなどの条件を総合的に考慮する必要があります。
応用アンテナ構造の選択では、通信距離や使用環境、指向性や放射特性、実装スペースや筐体構造、といった複数の要素を同時に検討することが欠かせません。アンテナ構造は目的に応じて使い分けるものであり、要求仕様を正しく整理することが、最適なアンテナ選定への第一歩となります。
6.おわりに
第5回および本稿を通して見てきたように、アンテナ構造は無秩序に存在しているわけではありません。ループアンテナやパッチアンテナ、小型アンテナといった応用的な構造も、ダイポールアンテナやモノポールアンテナといった基本構造の延長線上に位置付けることができます。
応用アンテナ構造を理解する際には、個々の形状を覚えることよりも、「どのような制約に対応するために、この構造が選ばれているのか」という視点が重要です。とくに小型化や実装制約は、現代のアンテナ設計において避けて通れない要素となっています。
こうした基本構造と応用構造の関係を意識することで、新しいアンテナ構造に出会った場合でも、その特性や設計意図を理解しやすくなります。
次回は、アンテナの設置環境や周囲物体が特性に与える影響について取り上げ、実機設計で注意すべきポイントを解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)



](https://engineer-education.com/wp/wp-content/uploads/2021/10/Circuit-element0-150x150.png)






























