3分でわかる技術の超キホン アクリレートとメタクリレートの違いとは?

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アクリレートとメタクリレート

アクリレートメタクリレート共に代表的な重合性モノマーです。

特許の明細書等においては「(メタ)アクリレート」という表記がしばしばみられ、両者はまとめて扱われることが多いようです。

ポリメタクリル酸メチルPMMAはよく知られまた大量に生産されているポリマーですが、俗に「メタクリル樹脂」ではなく「アクリル樹脂」と呼ばれることも多いので、あまり両者の差を気にしない方もおられるかもしれません。しかし、当然ながら両者には差があります

本稿ではその差に着目して解説します。

 

1.ラジカル重合速度

モノマーとしての使用時に必要なデータは、まず、その重合速度、殊にラジカル重合の速度です。
ここでは、アクリレートとしてアクリル酸メチル、メタクリレートとしてメタクリル酸メチルを選択し、これに酢酸ビニルとスチレンの2種のモノマーを加えて、ラジカル重合速度について考察します。

表1は大津らがまとめた重合速度データから抜粋したものです1)
この表でポリマーラジカルとモノマーの反応速度に焦点をあてています。
下記ABの2要素を変数とし、表中では共鳴効果パラメータの順に並べています。

 A:モノマー種
 B:ポリマーラジカル種:ポリマーの成長末端がどのモノマーに由来するかの区分

 

【表1 反応速度定数(60℃)】
反応速度定数(60℃)

 
表1から何が導き出されるでしょうか。

B:ポリマーラジカル種を酢酸ビニルに固定して考察してみましょう。
A:モノマー種の共鳴効果パラメータの増加と共に反応速度定数が向上する傾向にあることが分かります。
この傾向はB:ポリマーラジカル種が他のケースでも見られます。
モノマーとしてのラジカル重合速度メタクリル酸メチル>アクリル酸メチル であることが分かります。

逆にA:モノマー種を酢酸ビニルに固定してみましょう。
B:ポリマーラジカル種が表1中の酢酸ビニル由来から右に移行するにつれて、反応速度が低下します。
この傾向はA:モノマー種が他のケースでも同様です。
即ち、ポリマーラジカル種としては、モノマー種の時とは逆に、メタクリル酸メチル由来の方が反応速度が低いことが分かります。

では、単独重合速度を比較すると、どうなるでしょうか。
単独重合はA:モノマー種とB:ポリマーラジカル種が同一のケースですから、
アクリル酸メチル1250 > メタクリル酸メチル575
と、アクリル酸メチルの方が単独重合速度が高いことが分かります。

以上のように、アクリレートとメタクリレートのラジカル重合速度には無視できない差があります。

 

2.ガラス転移点

ポリマーの物性として何に着目するかは用途によって異なりますが、汎用性があって感覚的にも分かり易い物性としてガラス転移点Tgがあります。

「ガラス転移点」とは、ポリマーがガラス状態からゴム状態へと変化する温度のことです。
感覚的には、柔らかいポリマーはガラス転移点が低く、硬いポリマーはガラス転移点が高いことになります。

では、ポリアクリレートとポリメタクリレートでは、ガラス転移点に関してどんな差があるでしょうか。
両者のガラス転移点を図1に示します2)

 

ポリアクリレートとポリメタクリレートのガラス転移点の比較
【図1 ポリアクリレートとポリメタクリレートのガラス転移点の比較】
(高分子データベース収録データに基づいて作成)

 

どちらのポリマーでもエステルを構成するアルキル基の鎖長が長くなればガラス転移点は低下しますので、鎖長Cn(C1=メチル、C2=エチル、 ・・・)を揃えて比較してみましょう。

どの鎖長でもポリメタクリレートの方がガラス転移点が高いことが分かります。
殊に鎖長が短いケースでその差が顕著です。

水族館の水槽はポリメタクリル酸メチルPMMA製です。
ポリアクリル酸メチルでは水槽に使えないことがお分かりいただけると思います。

 

3.電子線やⅩ線照射時の挙動

次にポリアクリレートとポリメタクリレートを極端な環境においた際の挙動の差について述べます。

電子線やX線のような高エネルギー線を照射したら何が起きるでしょうか。

ポリアクリレートでは架橋反応が起こり、ポリメタクリレートでは分解(崩壊)が起こります。
これはそれぞれ図2の反応が支配的になるためだと説明されています3)

 

電子線やⅩ線照射時に支配的な反応
【図2 電子線やⅩ線照射時に支配的な反応】

 

この挙動は科学的現象の範疇にとどまるものではありません。
電子線照射時のポリメタクリレートの崩壊という現象を利用して、ポリメタクリル酸メチルPMMAは実際に半導体製造工程においてポジ型(崩壊型)の電子線感光樹脂として使用可能です。

 

アクリレートおよびメタクリレートの活用においては、上述の相違点も踏まえつつ、最適な利用法をご検討いただければと思います。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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