内部監査とは?目的、進め方、質問例、効果的な監査を行うポイントを解説
内部監査は、QMS(品質マネジメントシステム)の向上や、品質不具合を未然に防止するために重要です。
本記事では、ISO9001などで要求される内部監査の目的、実施手順、質問例、効果的な監査を行うポイントについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
1.内部監査とは?目的は?
内部監査とは、社内で「内部監査員」を認定し、他部門の活動が適正に行われているかを確認する作業です。
内部監査員は日時を取り決め他部門に出向き、監査対応部署(監査を受ける部署)へのヒアリングや、活動記録に基づいて監査を行います。
監査の中で、不適合(適正な活動が行われていない、あるいは適正な活動が行えるルールになっていない)が発見された場合、監査対応部署は是正処置を行わなければなりません。
内部監査の目的
内部監査の主な目的は、その部署の活動が全社の品質方針や目標に合致しているか、実際の業務プロセスと品質マネジメントシステム(QMS)と整合がとれているかの確認をすることです。
たとえば、品質事故が起きていない部署では、品質目標が形骸化して品質改善活動がマンネリ化しがちです。
そのような部署に内部監査で効果的な品質目標の提案を指示することで、監査対応部署が「改めて目標を考え直す」機会を持つことができます。
また、長年ずっと同じ作業を行っていたため見落とされていた品質リスクを、他部署の新鮮な視点で監査することで発見できるケースもあります。
さらに、内部監査を行う側も普段の業務では関わりの薄い部署についての知見が得られ、見識が深まります。
このように、内部監査を通じて、従業員の品質意識を高め、品質管理の重要性について理解を深めることも重要な目的の一つです。
2.ISO9001に基づく内部監査
規格要求事項が記載されているISO9001:2015では、内部監査を品質マネジメントシステムの重要な要素として位置づけられています。
規格の9.2 内部監査の項では以下のように述べられています。
9.2 内部監査
9.2.1 組織は、品質マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために、あらかじめ定めた間隔で内部監査を実施しなければならない。
a) 次の事項に適合している
1)品質マネジメントシステムに関して、組織自体が規程した要求事項
2)この規格の要求事項
b) 有効に実施され、維持されている。
9.2.2 組織は次に示す事項を行わなければならない。
a) 頻度、方法、責任、計画要求事項及び報告を含む、監査プログラムの計画、確立、実施及び維持。監査プログラムは、関連するプロセスの重要性、組織に影響を及ぼす変更、及び前回までの監査結果を考慮しなければならない。
b) 各監査について、監査基準及び監査範囲を定める。
c) 監査プログラムの客観性及び公平性を確保するために、監査員を選定し、監査を実施する。
d) 監査の結果を関連する管理層に報告することを確実にする。
e) 遅滞なく、適正な修正を行い、是正処置をとる。
f) 監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として、文書化した情報を保持する。
このように、組織は計画された間隔で内部監査を実施することを求められています。
また内部監査では、QMSが規格要求事項および組織が定めた要求事項に適合しているか、効果的に実施され維持されているかを評価します。
3.内部監査の種類
自動車業界で認証が推奨されているIATF(International Automotive Task Force)では、内部監査にはQMS監査、製造工程監査、製品監査の3種類が要求されています。
- QMS監査:組織の方針、手順、プロセスなどがIATF 16949の要求事項に適合しているかを確認する仕組みの監査
- 製造工程監査:作業標準の遵守状況、工程管理、設備の適切性、測定機器の校正状況、作業員の力量など製造プロセスそのものを検証する監査
- 製品監査:完成品または仕掛品の製品特性、外観、機能、寸法などを検査し、顧客からの要求通りに製造できているか検証する監査
IATF認証の取得とは関係のない企業であっても、製造業での内部監査にはこの3つの側面があることを理解しておくのは重要です。
「製造工程への内部監査で文書類に関するQMS監査だけを行い、実際の製造現場で作業標準の遵守を確認していなかった。このため、品質不具合のリスクに気付けなかった」といったケースがないようにしましょう。
[※IATFの基礎知識に関する記事:IATF16949の必須知識まとめ解説 はこちら]
4.内部監査の実施手順(進め方)と内容
では、内部監査の具体的な進め方について見てきましょう。
内部監査の成功に向けた実務的なポイントも解説していますので、ぜひ参考にして下さい。
(1)事前準備
① 内部監査ルールの作成
内部監査を効果的に実施するには、社内の明確なルール策定が必要です。内部監査ルールでは、年間計画書に記載する内容や、監査頻度、監査員認定、監査結果の基準などを規定します。
監査頻度は、○年に○回など自社の実情を鑑みて、明確に定義します。重要なプロセスとそうではないプロセスで監査頻度を変更することも効果的です。
監査員認定制度では、監査員に必要な力量(ISO規格の知識、監査技法、業務知識)を明確にし、研修と実地経験を組み合わせた育成プログラムを整備します。公平性を確保するため内部監査員が所属する自部署の監査はできませんので、必要な内部監査員人数の把握をしておきましょう。
判定基準は、「メジャー不適合」「マイナー不適合」「観察事項」の区分を明確にし、重大性の評価方法を標準化しておきます。監査員によって監査結果が違うことのないよう、一貫性を確保します。
これらのルールは品質マニュアルや内部監査手順書として文書化し、定期的に見直すことで実効性を維持します。
② 年間計画書の作成
内部監査員責任者は、年間の監査計画を立案し各部門の監査スケジュールを決定します。
監査チームの編成では、内部監査員の自部署が監査対象とならないよう注意しつつ、必要な専門知識を持つメンバーを選定します。
監査の約1ヶ月前には監査対応部署に監査通知を行い、必要な文書や記録の準備を依頼します。
また、前回の監査結果や是正処置の状況、日常的なプロセスパフォーマンスデータなどを事前に確認し、重点的に確認すべき事項を特定します。
③ チェックリストの作成
監査チームは内部監査を実施する前にチェックリストを作成します。内部監査は時間が限られていますので、全てを確認することは困難です。
事前に監査対応部署の文書類などをチェックし、どの項目について質問するかを決めておきましょう。
《チェックリストの例》
- 過去の監査で指摘された事項の是正処置を継続して行っているか
- 直近の品質不具合に対する是正処置を継続して行っているか
- 目標設定は会社全体の品質方針と整合しているか
- PDCAを効果的に回した改善活動ができているか
これらの項目は、単にYes/Noで回答させるのではなく、証拠の確認や担当者へのインタビューを通じて深く掘り下げるためのきっかけとなるように準備を行います。
(2)内部監査の実施
① オープニングミーティング
監査では、まずはオープニングミーティングを行いましょう。
監査チームは監査対応部署に、監査チームのメンバー、監査の目的と範囲を明確に伝え、監査対応部署との信頼関係を構築します。
② 内部監査の実施
実際に内部監査を実施していきます。
内部監査では、事実確認と改善機会の発見に焦点を当てます。監査の目的は改善の機会を見出すことであり、欠点探しではないことを常に意識して対話を進めます。
また、具体的な事例や証拠を求める際は、威圧的にならないよう配慮しながら、明確な表現で質問しましょう。オープンな質問を活用し、監査対応部署の担当者が自由に説明できる雰囲気を作ります。
さらに、文書や記録のレビュー、現場観察、インタビューなど多角的な方法で証拠を収集し、発見事項はその場で確認して誤解がないようにします。
不適切な事例が発見された場合には、どの文書や行為がどのような基準に対し不適切であったかを監査対応部署に説明しましょう。監査員の主観ではなく客観的な証拠が重要です。
また、好事例を見つけた際は積極的に評価し、組織内での水平展開の可能性も検討します。
③ クロージングミーティング
監査の締めくくりとなるクロージングミーティングでは、監査結果の要約を簡潔に説明し、監査対応部署と認識を共有します。
発見された不適合事項や観察事項は、事実に基づいて明確に伝え、該当する要求事項との関連を説明します。
この際、批判的な表現は避け、前向きな表現を心がけます。監査対応部署からの質問や異議に対しては丁寧に対応し、必要に応じて追加の証拠を提示します。
最後に、好事例や改善点についても触れ、監査への協力に感謝の意を表すことで、建設的な関係を維持します。
④ 効果的な質問例
効果的な監査を行うためには、状況に応じた適切な質問技法の活用が重要です。
たとえば、プロセスの理解度を確認する際は「この作業の目的は何ですか?」といったオープンな質問(Yes/Noで回答できない質問)から始め、具体的な手順の確認へと進みます。
問題点が発見された場合には、「どのような対策を考えていますか?」といった建設的な質問を通じて、改善の方向性を一緒に検討します。
リスク評価について確認する場合は、「この工程で考えられるリスクは何ですか?」「そのリスクに対してどのような対策を講じていますか?」と段階的に質問します。
常に「なぜ」を意識した質問を心がけることで、表面的な適合性確認にとどまらない、深い洞察を得ることができます。
(3)実施後のフォローアップ
① 内部監査報告書の作成
内部監査報告書には、監査の概要(日時、場所、対象範囲、監査チーム)、確認した事実、不適合事項、改善推奨事項を明確に記載します。
不適合事項については、該当する要求事項、確認された事実を具体的に記述し、是正処置の必要性を明確にします。
また、監査中に気付いた改善の機会についても、建設的な提案として記載します。
内部監査報告書が完成したら速やかに監査対応部署に送付し、是正処置の実施に移りましょう。
② 是正処置の実施
是正処置は、発見された不適合の根本原因を特定し、再発防止を図ることが重要です。
まず、不適合の状況を正確に把握して、発生した原因を分析します。必要に応じてなぜなぜ分析などの手法を用いるのも効果的です。
原因が特定されたら適切な是正処置を実施します。
是正処置の実施後は、その処置で二度と再発しないのか、十分な是正処置であるか、という観点からその有効性を評価し、必要に応じて追加の対策を講じます。
また、是正処置は単なる問題修正ではなく、システム改善の機会として捉えましょう。
たとえば、ある測定機器の校正期限切れという不適合を発見した場合には、その測定機器の校正を行うだけではなく、なぜ校正期限切れが起きたのか原因の深掘りを行います。
校正スケジュールが担当者任せだった場合には、上長や機器使用者からアラームが上がる仕組みを構築するなど、根本原因の解決まで踏み込んだ体系的是正処置を行いましょう。
③ 経営層への報告
ISO9001:2015の要求事項 9.3.2 マネジメントレビューへのインプットでは、監査結果の報告が要求されています。
報告では、年間の監査実施状況、主要な発見事項、是正処置の進捗状況、システム全体の傾向分析などを簡潔に提示します。
経営層からのフィードバックは、監査プログラムの改善や次年度の監査計画に反映させ、継続的改善への動機付けとなるよう工夫することが重要です。
5.より効果的な内部監査を行うためのポイント
(1)事前にフォーカスポイントを通知する
効率的な内部監査を実施するために、事前にフォーカスポイントを通知することをお勧めします。
監査の時間は限られていますので、双方で事前準備を十分に行うことで監査当日はより深い議論が可能となります。
ただし、通知するのはあくまで重点領域であり、その他の項目も必要に応じて確認することを伝えておくことも重要です。
(2)内部監査員スキルの向上
内部監査の質は監査員の能力に大きく依存するため、計画的な人材育成が不可欠です。
ISO規格の知識だけでなく、プロセスアプローチやリスク思考の理解、効果的な質問技法、コミュニケーションスキルなど、実践的な能力開発も重要です。経験豊富な監査員とのペア監査は、知識やスキルの伝承に効果的で、監査の一貫性向上にも寄与します。
また、外部研修への参加や資格取得の奨励、定期的な事例検討会の実施なども、監査員の継続的な能力向上に役立ちます。
監査員の育成への投資は、内部監査の価値を高め、品質マネジメントシステムの実効性向上に直結します。
6.まとめ
いかがだったでしょうか。
本記事では、内部監査の目的や実施手順を具体的に解説しました。
しかしながら内部監査の質は、監査員の力量が一番大きく影響します。
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(アイアール技術者教育研究所 K・A)
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