音響メタマテリアルの基礎工学と研究開発の動向
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「メタサーフェス」とは、簡単に言えば「人工的に作られた表面」のことで、自然界に存在しない反射特性を持っています。つまり、その表面で反射した電磁波の反射位相を制御できるのです。
「メタマテリアル」という言葉とも似ていますが、メタマテリアルは三次元構造なのに対し、メタサーフェスは二次元構造をしています(図1)。メタサーフェスはメタマテリアルの一種であり、通常メタマテリアルの方がメタサーフェスよりもかなり小さいです。
また、メタサーフェスは電磁波が入射した際に表面波の制御や反射特性に変化を与えるのに対し、メタマテリアルは電磁波が入射した際にその伝搬特性(屈折率など)を変化させます。
メタマテリアルやメタサーフェスを構成する最小単位は「メタ原子」などと呼ばれています。これは、水が水分子から構成されていることと同じイメージです。
【図1 メタサーフェスとメタマテリアルのイメージ】
メタサーフェスの研究は、電磁波の制御方法によって様々であり、盛んに行われています。
ここでは、代表例をいくつか紹介します 。
特定の周波数帯でのみPMC特性を持つように人工的に実現したものを「AMC」(Artificial Magnetic Conductor/人工磁気導体)と言います。アンテナの設計にAMCを用いることで、反射特性の制御から、導体表面にそって伝播する表面波を抑制し、指向性の劣化を防ぐことができます。アンテナの低姿勢化や高利得化が実現できます。
先ほど登場したPMC特性について簡単にふれておきます。
電磁界シミュレーションにおいて馴染み深い言葉として、「電気壁」、「磁気壁」がありますが、PEC とPMCは、同義になります。
「PEC」(Perfect Electric Conductor)は、完全導体のことであり、PECに入射した電磁波は、電界の接線成分が打ち消され電磁波を逆位相で反射します。
一方で、周期構造により磁界の接線成分を打ち消し、電磁波を同位相で反射させる構造体が人工的に作られました。そのような構造体を「PMC」(Perfect Magnetic Conductor)と言います。また、PMCでは、インピーダンスが無限大となります。
特定の周波数帯で表面に高い電気的インピーダンスを持つ人工的に作られた表面構造を「HIS」 (High Impedance Surface/高インピーダンス表面)と言います。つまり、特定の周波数帯でAMCと同様のPMC特性を持つため、入射・反射する電磁波が同位相になり波の合成により反射した電磁波が増強されます。これらから、周波数範囲によって電磁波の反射特性を制御することができます。
電磁場の勾配を制御することで電磁波の振る舞いを変化させることができます。それを微細な構造で人工的に設計した表面構造を「EGS」 (Electromagnetic Gradient Surface/電磁傾斜表面)と言います。入射した電磁波の位相や振幅に変化を加えることが可能となり、反射特性も制御できるようになります。
ここでは、メタサーフェスの基本構造の一つでる「マッシュルーム型」について説明します。マッシュルーム型は、図2のように、立体的かつ周期的にきのこ状のユニットセルを配置した構造です。立体的とは言いましたが、全体で見ると一枚の板のように二次元的な人工表面となっています。ちなみに、EGSなどは大きさの異なるユニットセルを配置しています。
【図2 メタサーフェスの基本構造の一つである”マッシュルーム型”】
周期構造を横から見ると図3のようになっており、これはLC並列共振回路と等価回路になっています。
【図3 周期構造を横から見た図】
この時、面方向のインピーダンスZはインダクタLとコンダクタCを用いて次式で表されます。
・・・(1)
式(1)より、共振周波数 ω=1/√LC の時インピーダンスZは無限大になることが分かります。
つまり、共振周波数という特定の周波数で非常に高いインピーダンスになることからPMCに近い状態の表面が得られます。
AMCやHIS等における大きさの同じユニットセルを周期的に配置したメタサーフェスの反射特性例が図4となっています。
【図4 メタサーフェスの反射特性例 ([1]より引用)】
図4を見ると、表面での反射位相が入射位相と同相になる、すなわち反射位相ϕs=0となるようなPMC特性を持っていることがわかります。
ちなみに、PECでは表面での反射位相が入射位相と逆位相になる、すなわち反射位相ϕs=±πとなります。
また、反射位相ϕs=-π/2~π/2の範囲を疑似的なPMCと定める事により、メタサーフェスにおけるPMC特性の動作帯域幅とすることが一般的になります。
ここでは、メタサーフェスの応用例をいくつか簡単に紹介します。
ということで今回は、5G関連技術としても注目されているメタサーフェスの基礎知識をご紹介しました。
メタマテリアルについては、別コラム「メタマテリアルとは?原理/構造/応用例などをわかりやすく解説!」で解説していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
(アイアール技術者教育研究所 Y・F)
《引用文献、参考文献》