バイオ医薬の後続品「バイオシミラー」を初心者向けに解説|一般的なジェネリック医薬品との違いは?

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バイオシミラー

今回は、抗体医薬の高額な医療費の切り札として期待されている、バイオ後続品バイオシミラー)について解説します。

1.バイオシミラーとは?

CMなどで「ジェネリック医薬品」という薬をお聞きになったことや、実際に薬局でジェネリック医薬品をもらった経験のある方も多いと思います。ジェネリック医薬品は、新薬の再審査期間や物質の特許期間が満了した後に、新薬と品質、効果、安全性が同等であることを証明する試験を実施して製造・販売される医薬品のことです。

このジェネリック医薬品は、新薬と全く同じ有効成分が含まれていますが、新薬では開発に長い期間と数百億円から数千億円ともされる巨額の費用がかかるとされるのに対し、ジェネリック医薬品では開発費が数億円で済むため、薬の値段(薬価)が低く抑えられていることが特徴です。そのため、年々増え続ける国民の医療費負担削減の切り札としてジェネリック医薬品の使用が推進されています。

このように経済的にメリットが非常に多いジェネリック医薬品ですが、多くは低分子医薬品であり、抗体医薬などのバイオ医薬品の場合には先行品と同一の有効成分を有する後発品の開発が困難になっています。なぜでしょうか?

 

(1)低分子医薬品とバイオ医薬品の違い

a)低分子医薬品

  • 化学合成により製造されるため、成分の純度や不純物の管理が容易
  • 安定して製造・保存可能
  • 有効成分の構造式が同じであれば、新薬とジェネリック医薬品の同等性を証明することが容易

 

b)バイオ医薬品

  • 細胞培養技術により製造される
  • タンパク質は分子量が大きく不安定
  • 使用する細胞や製造条件の違いによって構造が変わる可能性がある

 
バイオ医薬品は「生きている」細胞を製造に用いているため、新薬と同じアミノ酸配列をコードする核酸を使用したとしても、製造に用いる細胞や培養・精製プロセス、製剤組成が異なれば生産物の構造が大きく変わってしまう可能性があります。

もちろん、先行バイオ医薬品を製造するメーカーであっても、製造方法や製造場所の変更や、極端な場合には、製造ロットの違いによっても有効成分が「完全に同一」にはならないのです。

 

(2)バイオ医薬の場合には「似ている薬」バイオシミラーが開発される

低分子医薬のジェネリック医薬品のように先発品と全く同一の有効成分を有する製品を開発することはバイオ医薬では難しいのですが、バイオ医薬では代わりに先行品との「同等性/同質性」が担保されれば、先行バイオ医薬品メーカー以外の会社でも後続品を開発することが可能です。

この後続品のことを「バイオシミラー」と呼びます。
なお、バイオシミラーの「シミラー」は英語の「Similar(類似した)」に由来しています。

 

(3)バイオシミラーに必要な試験

バイオシミラーを開発するときに重要な先行品との「同等性/同質性」は、英語の 「Comparability」の和訳で、「先行バイオ医薬品に対して、バイオ後続品の品質特性がまったく同一であるということを意味するのではなく、品質特性において類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味する」(厚生労働省 薬食審査発0304007号1) 平成21年3月3日)とされています。

この「同等性/同質性」を担保するために、バイオシミラーの開発では以下の比較試験が実施されます。
 

① 品質特性試験

  • 構造解析
  • 物理化学的性質
  • 生物活性
  • 免疫原性
  • 不純物

 

② 非臨床試験

  • 毒性試験
  • 薬理試験

 

③ 臨床試験

  • 臨床薬物動態(PK)試験、薬力学(PD)試験
  • 臨床的有効性の比較
  • 臨床的安全性の確認

 
バイオシミラーの開発では、新薬ほどではないものの、ジェネリック医薬品よりは非常に多くの試験を経て有効性を確認し、安全に使用することが可能になっています。

 

(4)バイオシミラーの一般名と販売名

バイオシミラーでは、有効成分が先行品と完全に同一ではないので、商品名だけでなく、以下のように有効成分の一般名に「後続(+通し番号)」の文字を追加してバイオシミラーであることが区別できるようになっています。なお、商品名の「BS」はバイオシミラー(Biosimilar)を意味します。
 

《参考》リツキシマブのバイオシミラー(協和発酵キリン社)の事例2)
 
 商品名:リツキシマブBS点滴静注100mg「KHK」
     リツキシマブBS点滴静注500mg「KHK」
 一般名:リツキシマブ(遺伝子組換え)[リツキシマブ後続1]

 

2.バイオシミラー発売のタイミング

バイオシミラーは、ジェネリック医薬品と同様に新薬の再審査期間や物質特許の満了後に発売されますが、比較的多額の開発費がかかるため、新薬と同様にグローバル展開することが多くなっています。そのため、日本で発売されるバイオシミラーであっても、海外での開発動向や外国の特許満了日に発売のタイミングが影響される可能性があることに注意が必要です。

また、下記のように先行品が最初の発売後に効能(対象となる癌の種類など)、用法・用量を順次追加して承認を取得したような場合に、先行品とバイオシミラーで効能や用法・用量が異なることもあります。

 

(1)ベバシズマブの場合

ベバシズマブの場合には、物質特許の延長期間(最長で5年)が先行品の効能追加承認のタイミングによって異なっています。延長された期間の物質特許は、承認された効能に限定して存続するものとされており、効能によっては現在も物質特許が存続しているために下記のように先行品とバイオシミラーで承認された効能が違っています(表1)。
 

効能・効果 物質特許の延長期間
(満了日)
アバスチン®️
(先行品)
ベバシズマブBS
(バイオシミラー)
治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん 2年3月30日
(2020年8月2日)
扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん 2年5月18日
(2020年9月21日)
手術不能又は再発乳癌 4年4月8日
(2022年8月11日)
悪性神経膠腫 5年
(2023年4月4日)
×
卵巣がん 5年
(2023年4月4日)
×
進行又は再発の子宮頸癌 5年
(2023年4月4日)
×
※ 物質特許:特許第3957765号3)

【表1 ベバシズマブの先行品とバイオシミラーの承認効能の比較(2022年11月現在)】

 

(2)トラスツズマブの場合

トラスツズマブの場合には、先行品(ハーセプチン)の添付文書に「B法」として記載されている、3週間ごとにトラスツズマブを投与する方法(A法は1週間ごと)があり、中外製薬社は、乳癌に対するB法の適用を2011年11月に追加しました4)

しかし、この乳癌のB法に関しては、バイオシミラーの発売当初には特許権(特許第5818545号5))が存在していたので、バイオシミラーを開発した各社は乳癌のB法を効能から外して申請した経緯があります。なお、この特許は既に存続期間が満了しているので、現在は先行品とバイオシミラーの用法用量に違いはありません。

 

3. バイオシミラーのメリットと普及への課題

バイオシミラーは、先行バイオ医薬品の約70%の薬価に抑えられており、経済負担が抑えられる大きなメリットがあります。
しかしながら、現在日本では、ジェネリック医薬品と比較するとバイオシミラーの知名度や普及率はまだまだ低いのが現状です。

要因として、先行品と構造が全く同じとは言えないバイオシミラーの臨床データの不足など、医療関係者がバイオシミラーの有効性・安全性に不安をもつケースや、高額療養費制度や医療費助成制度によりバイオシミラーへの切り替えに経済的メリットを感じにくい場合があるなどの普及に向けた課題が指摘されています。

非常に高い治療効果が期待できる反面、高額になりがちな抗体医薬を普及させるカギの一つとして、バイオシミラーに対する今後の取り組みに期待したいと思います。
 
 

(アイアール技術者教育研究所 A・S)
 


≪引用文献、参考文献≫


 

 

バイオ医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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